予防法

 当然ながら、一番大切なのは吸血鬼が出現しないよう予防策を講じることである。セルビアでは、埋葬する前の死者は手足を縛って動けないようにし、さらに埋葬を行う際、行きと帰りで違う道を通る。甦った死者が道を間違えるようにするためである。カルパチア地方では遺体の運搬には橇を用いる。その方が揺れが少なく、死者が目覚めることが少ないからである。多くの場合吸血鬼は自分の遺族のもとに帰ろうとするので、残された遺族は服を変えたり、髪や髭をのばしたりする。リトアニアでは、自殺者(吸血鬼になる)の首を切り落とし、ダルマティアでは全身に釘を打ち込んで動けないようにする。犯罪者の屍体も似たような処置をとる。そこまでいかなくても、刺のある蔦でぐるぐる巻きにしたり、ロープで縛って動けないようにする方法もある。普通に死んだ人でも、あの世への旅の渡し賃や宿賃がなければ帰ってくる怖れがあるので、口の中にコインを含めてやる。もっと単純な手段として、柩を釘で密閉し、上に重い石をのせるという方法もある。セルビアの一部では吸血鬼は骨がないと考えられ、その身体は悪魔がふいごを使って膨らませたものと信じられているが、それを防ぐため、犯罪者(これも吸血鬼になる)の屍体に空気抜けの傷をつけておくという。


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