吸血鬼ハンター

 

 吸血鬼退治にはとりあえず教会関係者が適任だが、職業的な「吸血鬼ハンター」というものも存在する。ヴァン・ヘルシング教授のように学問と研究の積み重ねによって吸血鬼の退治法を身につけたハンターや、ギリシアのサントリーニ島(「吸血鬼の正体」の項を参照のこと)の住民のように、吸血鬼の猖獗する環境に育ったことから自然と吸血鬼退治に習熟するに至った人々もいるが、中にはもって生まれた宿命によってハンターとなる者もいる。

 かような吸血鬼ハンターとして最高なのは「ダンピール」である。ジプシーの伝説では、吸血鬼となった男は自分の妻と性交したいという強い欲求を抱き、その結果生まれるのがダンピールなのだという。一説にはダンピールとして生まれてくるのは男のみであるといい、また一説にはそれはゼリー状の身体をしているのですぐに死ぬとか様々であるが、少なくともダンピールを名乗る吸血鬼ハンターはバルカン半島の各地に存在し、村人から礼金をせしめて結構な暮らしをしていたという。しかし、例えばセルビアにおいては吸血鬼は目に見えないとされるため、ダンピールを名乗る人物は1人で笛を吹いたり走り回ったりして、最後に「吸血鬼は死んだ」と宣言するだけである。ちなみに、ダンピールの儀式が最後に行われたのは1959年のユーゴスラヴィアのコソヴォ自治州であるという。

 さらにアルバニアのペルレペには人狼の子孫と称する一族が吸血鬼退治の秘術を有するといわれ、白い羊膜をつけて生まれてきた「クルースニック」も生まれながらの吸血鬼ハンターであるとされるが、そんな特殊な人種(?)は滅多にいないので、とりあえず土曜日に生まれた人「サバタリアン」がいると便利である。ブルガリアやギリシアでは彼等は吸血鬼の正体を見抜くことが出来るといい、ギリシアのそれはしばしば「霊犬」という僕を従えているという。しかも、吸血鬼は土曜日だけは墓の外に出ることが出来ないとされている。何故ならば土曜日は聖母マリアに捧げられた日であるからである。「サバタリアン」の中でも、男女の双子は特に強力とされるが、マケドニアの一部では土曜日ではなく新月の後の最初の水曜日に生まれた者がハンターに相応しいともいわれている。


戻る